メイン

内田百間 アーカイブ

2007年3月16日

ノラや

ノラや

はじめて読んだ百間先生です。
百間先生の家にやってきてエサを貰っていた野良猫のノラが
ある日を境に急に姿を消してしまいます。
こんなに大切に思っていたとは思わなかったと
驚き、そして失踪したノラを思い狼狽する百間先生の気持ち、
もうもう身が切られるようです。

そして、ノラからの伝言を伝えにきたような「クルツ」という猫との出会い。
クルツは最期まで百間先生と共にありましたが、
最期を迎えるときの描写は、これまた涙なくしては語れません。

これは、壮大(?)なペットロス小説といえると思います。
猫の最期を看取ったことがある人には涙が出てたまらないと思います。
が、そこに悲壮感はなく、読後感がほわっとあったかいのが不思議です。
百間先生の狼狽振りをコミカルにとる人も少なくないのですが、
そのせいもあるのかもしれません。

わたしが読んだのは、中公文庫版でした。
この版は、旧仮名遣いなので、百間先生の文章が
とてもいい具合に読めますし、また表紙の絵は
先生が「クルやおまえか」を出版する際に、こういう構図で描いて欲しい、
と装丁画家にリクエストをしたもので、クルツと百間先生が縁側でたたずんで
お庭を眺めている様子なのだそうです。
おじいちゃんになった百間先生の佇まいが、すごく表現されています。
絵は斎藤清によるものです。

現在は、この中公版のほかにちくま文庫版がありますが、
現代かなとなっています。が、収録作品が多く、
最後の作品となった「猫が口を利いた」もあるので
どっちがいいかはなんともいえません。

遺作の収録された「日没閉門」は、古本で入手しましたので
「猫が口を利いた」についてはそのときにご紹介したいと思います。

ノラや
内田 百間
4122027845

ノラや―内田百間集成〈9〉 ちくま文庫
内田 百間
4480037691

※百間先生の「けん」の字は、ホントは門がまえに月です。
この文字が表示できない環境もあるので、戦前の表記「百間」に倣います。

2007年6月15日

百鬼園日記帖

「百鬼園日記帖」とは、若き日の百間先生の日記で、
大正時代の日記を、昭和になってから出版したものです。

そこには、いろんな家庭の雑事のために心乱され、
仕事がまったくはかどらない様がありありと描写されています。
士官学校教師をしていた百間先生は、自宅に戻ったら
依頼された翻訳をしなくてはならないのに、全然はかどりません。
家族が交代で風邪を引いたり、病気になったり、
友人の身内に不幸があって、その相談に乗らなくてはいけなかったり、
気持ちが乗らなかったり、などなど。

それで、なんだかんだで仕事が押してしまい、
翻訳の仕事をくれた人に対し、だんだん後ろめたさが募ってきます。
その切迫した描写は、自宅で仕事をしている人であれば
泣けるくらい共感を呼ぶのではないかと思います。

それにしても29歳にしてこの文章力。すばらしいです。
…29歳にしてこの借金地獄はどうかと思いますが。

なお、講談社版の全集の第3巻に収録されているものを
わたしは手にしておりますが、現在は
ちくま文庫で入手ができます。
旧かなにこだわる方は、古本をあたってみてください。

百鬼園日記帖―内田百間集成〈20〉
内田 百間
4480039007

2007年10月 6日

百間先生、月を踏む

百間先生 月を踏む
久世 光彦
4022501863

久世光彦の絶筆となった最後の作品。久世といえば乱歩と思っていたのだけれど、百鬼園もお好きだったんだなぁー。いや、あまり久世光彦のことは知らないのだけど。

この作品は、まったくのフィクションで、百間先生が小田原に滞在している様子を描いているもので、久世が創造する架空の百間先生の新作が何篇か挿入されている。これって乱歩でも摂られている手法だと思う。そうかー、久世光彦には百間先生はこう見えているのか、と興味深かった。けれど、わたしが思い描く百間先生とは違うなぁ、というのが率直な感想。

ラストを描く前に亡くなってしまったので、この先小説内の百間先生がどういう行動をとったのか、めちゃくちゃ気になる。久世光彦の心情をよく解している作家の方に完結編を書いていただきたい。本気でそう思う。絶筆は悶々とします。

2009年3月28日

阿房列車 1号

阿房列車 1号 (IKKI COMIX)
内田 百間 / 一條裕子
4091790364

なんにも用事がないけれど、汽車に乗って大阪へ行って来ようと思う ------ 私がヴォネガットと並び敬愛し続けている作家・内田百間の名著「阿房列車」を、あの「わさび」の一條裕子さんが漫画化してしまった! 一條さんは爺を描かせると天下一品なので期待していたが、百間先生を描かせても相当上手かった。特に横顔の鬢のアタリがなんとも。うーむ、いいぞいいぞ。

百間先生の語り口はそのままに、いい感じでデフォルメが利いて、仕事に疲れた合間にとてもリラックスできた。百間先生がファイティングポーズをとるのだけはちょっと違和感があったけど、もうほんと我が儘気ままな先生と、のらりくらりと頑固爺をうまくあしらう山系さんのやりとりには何度も爆笑した。はやく二巻が出ないかな。原作をまた読み返したくなった。コレ、とっても素晴らしいです。

余談ですが、この漫画には鉄道関係の監修がしっかりついていた。一條さんはこの作品を描く上でとても大変だったのではないかと思われる。監修付きの仕事の大変さが身にしみるこの頃、変なところに同調してしまった。

About j_001_hyakken

ブログ「書かでもの記」のカテゴリ「内田百間」に投稿されたすべてのエントリーのアーカイブのページです。過去のものから新しいものへ順番に並んでいます。

前のカテゴリは鮎川哲也です。

次のカテゴリは山口 瞳です。

他にも多くのエントリーがあります。メインページアーカイブページも見てください。