ノラや
はじめて読んだ百間先生です。
百間先生の家にやってきてエサを貰っていた野良猫のノラが
ある日を境に急に姿を消してしまいます。
こんなに大切に思っていたとは思わなかったと
驚き、そして失踪したノラを思い狼狽する百間先生の気持ち、
もうもう身が切られるようです。
そして、ノラからの伝言を伝えにきたような「クルツ」という猫との出会い。
クルツは最期まで百間先生と共にありましたが、
最期を迎えるときの描写は、これまた涙なくしては語れません。
これは、壮大(?)なペットロス小説といえると思います。
猫の最期を看取ったことがある人には涙が出てたまらないと思います。
が、そこに悲壮感はなく、読後感がほわっとあったかいのが不思議です。
百間先生の狼狽振りをコミカルにとる人も少なくないのですが、
そのせいもあるのかもしれません。
わたしが読んだのは、中公文庫版でした。
この版は、旧仮名遣いなので、百間先生の文章が
とてもいい具合に読めますし、また表紙の絵は
先生が「クルやおまえか」を出版する際に、こういう構図で描いて欲しい、
と装丁画家にリクエストをしたもので、クルツと百間先生が縁側でたたずんで
お庭を眺めている様子なのだそうです。
おじいちゃんになった百間先生の佇まいが、すごく表現されています。
絵は斎藤清によるものです。
現在は、この中公版のほかにちくま文庫版がありますが、
現代かなとなっています。が、収録作品が多く、
最後の作品となった「猫が口を利いた」もあるので
どっちがいいかはなんともいえません。
遺作の収録された「日没閉門」は、古本で入手しましたので
「猫が口を利いた」についてはそのときにご紹介したいと思います。
●ノラや
内田 百間
●ノラや―内田百間集成〈9〉 ちくま文庫
内田 百間
※百間先生の「けん」の字は、ホントは門がまえに月です。
この文字が表示できない環境もあるので、戦前の表記「百間」に倣います。