英語教師
わたしが夢野久作を初めて読んだのは高校生の頃だった。
当時のわたしは、学校の図書館の先生と仲良しで、
「ドグラ・マグラ」を薦めらたことがきっかけで
どっぷり久作にはまることになった。
その先生からは「家畜人ヤプー」も薦められた。
ヤプーは、あまりにも気持ち悪くて、最後まで読めずに返した。
そのとき、にやにや笑って「どうだった?」と先生に尋ねられた。
「無理でした」と降参したのを思い出す。
絶対に図書館にはないだろうなと思っていた
「音楽王・細野晴臣物語」なんて本を入荷してくれるような先生でもあった。
この先生は、桃井かおり似の、ちょっと物憂げな英語教師だった。
高校入試のときに、監視のため教壇に立っていた。
EPOみたいな出で立ちの派手な女の人だなぁーと
びっくりしたら、私のクラスの英語の教科担任になった。
授業でロッド・スチュワートのテープを流したり、
この先生の授業が大好きだったけど、周囲の生徒からは不評だった。
図書館には、もう一人、英語教師のおじいちゃんがいた。
ノーマン・ロックウェルが描く様な、パイプが似合いそうなおじいちゃんだった。
二人の英語教師は職員室にはあまり行かないで、
図書館脇の教官室にずっといた。
教官室にはストーブがあって、冬になると生徒の出入りが絶えなかった。
「職員室にはあんまり行きたくないんだよね」と桃井かおり似の先生は言った。
派閥があるのかな、なんてそのとき漠然と思った。
高校を卒業して、2年後くらいに
隣町の本屋さんで桃井かおり似の先生に会った。これが先生に会った最後だった。
「先生」
「あらー!久しぶりね」
「今、どうしてるんですか?」
「うん、○○高校に行ってるよ」
公立高校の先生は、ずっと同じ学校にいることが、まずない。
卒業したあとに母校に行ったって、誰も知ってる人はいないのだ。
今頃、先生はどうしてるだろうか。
どこかの学校の図書館で「ドグラ・マグラ」や「ヤプー」を
学生に薦めてるに違いない。きっとそうだ。