ジェイルバード
もし、メアリー・キャスリーンがほんとうは何者であるかをわたしが知っていたら、
彼女の両手を切り落としたがっている連中がいるという本人の話にも、
もっとなっとくがいったろう。
(「ジェイルバード」カート・ヴォネガット:著/浅倉久志:訳 より)
オリジナルイラストです。
RAMJAC(ラムジャック)コーポレーション。
この会社は、アメリカ産業界を牛耳っている大企業であり、
その大株主のジャック・グレアム夫人は、5年ほど前から表舞台から姿を消していました。
しかし、企業の買収があったとき、「あなたをRAMJACファミリーに歓迎します」と
グレアム夫人の肉筆の手紙が書かれ、署名の下には八本の指と二本の親指の指紋が押されます。
八本の指と二本の親指の指紋…。これが「本物」の証明なのです。
そして、イラスト中央に描かれたショッピングバッグレディー。
彼女の正体を明かしてしまいましょう。
彼女こそ、大財閥・RAMJACコーポレーションの大株主、
ジャック・グレアム夫人その人です。
彼女を殺し、その両腕を欲しがっている見えない敵がいる…。
世間から身を隠すため、彼女は身体に合わないほどに大きなバスケットシューズを履き、
靴の中に指紋を押すためのスタンプ台や重要書類等を押し込めて、
着られるだけのぼろを身にまとい、
ショッピングバッグレディーになって町中を逃げ回っていたのでした。
「ジェイルバード」の主人公は、ウォーターゲート事件の巻き添えを食って、
刑務所に収容されていた、ウォルター・F・スターバックです。
三年の月日を刑務所で過ごし、ようやく釈放されて
偶然出会った一人のショッピングバッグ・レディーが、かつての恋人、
メアリー・キャスリーン・オルーニーの成れの果てでした。
そして、メアリー・キャスリーンがRAMJACの大株主、
ジャック・グレアム夫人だったことは後から聞かされたのでした…。
ウォルターの回想録の形式で描かれた「ジェイルバード」で、
やはり鮮烈な印象と存在感を残したのはメアリー・キャスリーン・オルーニーでした。
大きなバスケットシューズを履いて逃げ惑うメアリー・キャスリーンを描こうと思いましたが、
それよりも、巨大なRAMJACビルや摩天楼と対比させて描く方が、
メアリー・キャスリーンを表現するにはぴったりではないか、と考えたのでした。
空には、青い空と輝く太陽。取り囲むようなビル群と、
厳しい顔をしたメアリー・キャスリーン。
そして自然を求める都会人のための公園と、
救いを求める人々のための教会を、背景に添えました。
(展示解説より転載)
展示風景です。正面一番左の、一番明るい場所に展示しました。
この絵、縦長に見えるのですが、実はそうでもなくて、ほぼ3:4の比率です。
縦にながーくそびえるビルが、縦長に見せているのですね。
なんちゃってカバー。
これに普通の帯がまきついてたら、キャスリーンが完全に隠れてしまう装丁でNGですね(汗)
海外の書籍ならいいかも。もしくは、帯なしで!
ハヤカワ文庫「ジェイルバード」カート・ヴォネガット
※「ジェイルバード」ですが、残念ながら、絶版のようです。
ただ、古書として比較的容易に入手が可能です。それにしても、悲しい、絶版…。