件(くだん)
こんなものに生まれて、何時迄生きてゐても仕方がないから、
三日で死ぬのは構はないけれども、預言するのは困ると思つた。
(内田百間「件」より)
オリジナルイラストです。
「件(くだん)」は大正11年に発表された、幻想味あふれる短編作品です。
そもそも件とは日本に古くから伝えられている物の怪で、その姿は頭が人で身体が牛です。
生まれて三日で不吉な預言を残して死ぬといわれていますが、
内田百間が描く「件」は、自分がどうして件になってしまったのかが理解できていません。
きょとんと戸惑っている件に対し、預言を聞こうと群がる人間たちは、
まるで好奇心の強い猿のようです。集まって、不安がって、騒ぐだけ。
その中に、こっそり百間猿が隠れています。
「阿房列車」や「百鬼園随筆」でみせる百間は、
ユーモラスな描写とわがままなのに憎めない人柄が魅力的なのですが、
創作となると、その色合いは一変します。
不気味で、取りとめがなく、話の前後関係があいまいで、心細い闇が広がっています。
創作と随筆の百間。一体どちらが本当なのだろう…。
しかし、明るく楽しい百間文学に浸っていると、
突如として闇の部分が突きつけられる事があります。
死んだはずの金貸しが訪ねてきたり(「贋作 吾輩は猫である」)、
寝台列車で休んでいると急に猿がのしかかってきて話しかけられたり(第三阿房列車)。
そんな場面に出くわすと、思わずニヤリ。
そして思うのです。
百間にとっては創作も随筆も、厳密な境目なんてないんだろうな、と。
だから百間はやめられない。
(展示解説より転載)
展示風景です。解説文と一緒に掛けてあるのが見えますか?
この文章が、上記のものです。
「冥途」のカバーという形にしています。だって「件」は「冥途」に収録されてるから。
一緒に並んでいるのは「第三阿房列車」カバーの『百鬼猫』と小川未明カバーです。
...ということで、明日は『百鬼猫』の登場です。
妄想百間先生との会話を全文掲載しますので、
「阿房列車」読者の皆様、笑ってくださいね〜。