パノラマ島綺譚
※クリックすると、大きな絵がポップアップいたします。どうぞご覧ください。
二人は、一方に於いて、限りなき愛着を感じ合いながら、一方に於いては、
廣介は千代子をなきものにしようと企み、千代子は廣介に対して恐るべき疑惑を抱き、
お互にお互の気持を探り合って、でも、そうしていることが、
決して彼等に敵意を起こさせないで、不思議と甘く懐しい感じを誘うのでした。
(江戸川 乱歩「パノラマ島綺譚」より)
オリジナルイラストです。
手に手をとって不思議な島を巡るふたり。水中トンネルの外には人魚が泳ぎ、
そうかと思う内に森が開け、羊羹を切ったように完璧で美しい人工の岩肌には滝が落ち、
ドームの内側には空が描かれ、温泉には美女が…。
ここはパノラマ島。一人の男の妄想が形になった不思議な島です。
とある資産家の息子が死んだ報を受けた人見廣介は、顔が瓜二つであることと、
土葬の習慣がある事実を巧みに利用することを思いつきます。
資産家の息子の生還に大騒ぎの村、喜びに沸き返る資産家の家族。
うまうまと成りすましに成功した廣介は、資産をつぎ込んでパノラマ島の建築を決行するのでした。
ところが妻の千代子だけは、夫が偽者であることを見抜いてしまいます。
廣介も千代子に悟られたことを知り、もうこうなったら島に連れ出して
殺してしまうしかない…と決意します。千代子も不安と恐怖にかられながらも、
島に行くことを断る理由が口に出せず、結局廣介の言いなりに…。
しかし、パノラマ島を巡るうち、二人の心は次第に惹かれあってゆくのでした…。
「パノラマ島綺譚」の作者である江戸川乱歩は、この奇妙な島の描写を書く事が、
楽しくて楽しくて仕方なかったそうです。
読者であるわたしは、奇妙でグロテスクな島をめぐる冒険の中、
二人が次第に惹かれ合ってゆく様が、なんとも愛しく感じました。
破滅に向かう恋だとわかっていながら、惹かれ合わずにはいられない、人の心の不条理さ、切なさ…。
乱歩が楽しく書いたように、わたしも二人に愛情を込めて、自由に楽しく、そしてちょっぴり切なく描き上げました。
最後は壮絶な大花火で終わるこの物語。この惹かれ合う二人がどうなったのかは、
ぜひ「パノラマ島綺譚」を読んで頂きたいと思います。
ちなみに、一番右端上にいる、トレンチコートのナイフを持った男の名は北見小五郎。
明智小五郎を連想させる存在です。
(展示解説より転載)
「パノラマ島綺譚」イラストのラフです。このラフも展示しました。
書き込みが細かいので、大きな絵を用意しました。クリックでポップアップ表示します。
展示風景です。「鬼火」の隣に展示してあるのがお分かりいただけると思います。
展示のときは、このイラストは4分割されていました。出力サイズは、1/4でタテ90cm、ヨコ30cm。
相当大きなものだったのですが、4分割することで、一度に目に飛び込んでくる情報量が押さえられ、
落ち着いて見ることが出来る形態となりました。
描く時は、4分割することを前提に描いたので、ラフではその分割ラインが描かれています。
正面から見たところです。この面の真向いには、ピアノが置いてあります。
「なんちゃってカバー」です。
実は、展示会場にはなくて、後日、作品ファイルを作った際に作りました。
ということで、このパノラマ島を持って、今回の展示作品をすべてご紹介することが出来ました。
明日は、展示報告の最後ということで、展示風景の全体のスナップを
何枚かアップして締めくくりたいと思います。
光文社文庫「パノラマ島綺譚」江戸川乱歩全集第2巻に収録されています。