「樽」と「探偵小説四十年」
まずは電車の友「樽」読了。
樽
F.W. クロフツ Freeman Wills Crofts 加賀山 卓朗
「樽」、デビュー作とは思えないクオリティでした。
大変面白かったです。
新装版の翻訳を手がけた加賀山さんも、すばらしいと思います。
この物語には、主人公らしい主人公はいるようで、いません。
強いてあげれば、樽を取り巻く人々や状況そのものが主人公で、
その移りかわりは映像的だとさえ思いました。
クロフツは映像化に縁がない作家らしいのですが、
「樽」こそは映画向きの作品だと思います。
そして就寝前の友「探偵小説四十年」上下巻読了。厚かった、これは!
探偵小説四十年〈上〉―江戸川乱歩全集〈第28巻〉
江戸川 乱歩
探偵小説四十年上巻は、戦前の探偵小説家のことや
当時の文壇を含めて、乱歩らを取り巻く状況が
非常に面白かったです。
アナログとか、デジタルとか、紙とか、WEBとか、
ランクや棲み分けをしている今の状況と、
当時の文壇とか大衆派とか、本格派とか変格派とかの議論に
なんだかとっても似ていて興味深かったです。
また、乱歩が久作の死を大変悼んでいるのが随所にみれて
これは久作ファンとして嬉しい所でした。
江戸川乱歩全集 第29巻 探偵小説四十年(下)
江戸川 乱歩
で、その下巻は、資料が1/3くらい取っているので、短めです。
戦時中の記録は、内田百間「東京焼盡」を思わせるところがありました。
戦争は嫌だけれど、置かれた状況は受け容れざるを得ない姿勢。
ここは共通している気がします。
昼夜逆転の生活が改まった、というのも同じ。
作家はどうやら同じような生活をしていたようです。
ただ、百間先生と大きく違うのは、乱歩は隣組などに積極的に参加して、
なんと厭人病が治ってしまった点。
上下巻を通して思ったのは、乱歩は自分で納得のいく作品が
ほとんど書けなかった人のようで、全く自身の創作活動を評価しません。
これは、「謙遜している」といったレベルではなく、
本当に自分に嫌気が差しているようでした。
とはいえ、探偵小説界の重鎮であることに変わりはなく、
そう見られていることは受け容れている。
褒められることも大好きで、切り抜き記事を全部取っておいてある。
どうにも一癖ふた癖あるお人のようだと思いました。
いやー、非常に面白かったです。
「幻影城」「鬼の言葉」も読んでみたいと思います。