アンドロイドは電気羊の夢を見るか?
フィリップ・K・ディックの小説より。
2007年、「ブレードランナー」のファイナル・カット版の上映があり、ブレラン好きとしてはこれは抑えておかねば!と、夫と二人で新宿の映画館に 向かった。とにかく音がすばらしく、ストーリーは何度も見てるから目新しさはないけれど、ともかくあんなに雨が降ってたっけ!?と改めて驚いた。映画館を 出ても、「ああ、そういえば外は雨だっけ」と錯覚を起こしたほどだ。そして、映画館を出て一望した新宿の夜景ときたら! まさにブレランの世界観そのものだった。雨が降っていればカンペキだったろう。
ただし、原作のフィリップ・K・ディックの「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」の世界観は真逆だ。雨なんか一滴たりとも降らない。どちらかとい えば、放射能をたっぷり含んだ砂塵吹きすさぶ、廃ビルだらけの世界。乾いているのだ。リドリー・スコットが、この物語を映画化する際に取った意訳が、どれ だけ思い切ったものか。それに、すばらしい世界観だった。そこに敬意を表したいと思うと同時に、やっぱ違うよね、という思いもあり、原作に沿ったビジュアルを心がけてみた。
生きている動物を飼うことがステイタスで、地位の象徴でもあった未来の地球。賞金稼ぎをして、その大金で動物を買う「原作のリック・デッカード」は、映画よりももっともっと人間臭い。全然かっこよくはない。だから、かっこいい絵にはしなかった。 これも一つの世界観だと思う。ディックが織り込んだ、心象世界の描写に、わたしは触れられなかったが、そこに着目し、表現したオリジナル文庫版の表紙を手がけたイラストレーター・中西信行さんにも改めて敬意を表したいと思う。