アインシュタイン交点
サミュエル・R・ディレイニーの小説より。
無謀だと思った。「アインシュタイン交点」を絵にすることは。第一、曖昧模糊としていて理解できなかった。なのに、目まぐるしい色彩と造形の洪水が、行間から押し寄せてきたのだから、仕方ないじゃないか。その第一印象を絵に描いておくことは悪いことじゃない。
まずは、もともとのタイトル「A Fabulous, Formless Darkness(摩訶不思議な混沌とした闇黒)」
という言葉に惹かれた。そして、冒頭のフィネガンズ・ウェイク、これにもう打ちのめされた。冒頭の「あたりが暗くなる、(色が衰え/沈々と静まり)......」これだけが動機で「アインシュタイン交点」を描いた。
ところが、描き上がって気がついたことがある。訳者あとがきで、伊藤典夫さんが「前回読んだ印象では、音楽を奏でる剣やら、ドラゴンやら、食肉花やら、SFというより安っぽいヒロイック・ファンタジィと見まがうような物語。ところがその背後に、これほどたくさんの意味と緊密なロジックが潜んでいたとは......」云々と綴ったくだりがあった。
......音楽を奏でる剣やら、ドラゴンやら、食肉花やらって、や......やばい、描いた絵もそのまんまだ! ファースト・インプレッション、ということで、どうかご容赦いただきたい。再読を待って、湧いたイメージは、きっとまた違ったものだろう。そのときに、もう一度挑戦できればいいと思っている。