ジョナサンと宇宙クジラ
ロバート・F・ヤングの小説より
今回取り上げるSF小説の中で、最も心優しい短編集、「ジョナサンと宇宙クジラ」。作者はロバート・フランクリン・ヤング。あたたかくて、優しい雰囲気を大事にしたいと思い、ストレートな絵にしてみた。宇宙クジラは人間にたとえるなら17歳の少女である。そこを大事にしよう、と。本当は白いクジラではない。けれども、彼女は白いドレスを着た美しい少女なのだから。
ほかに収録されている短編もどれもすばらしい。たとえば、「リトル・ドッグ・ゴーン」はまるでロードムービーのようだ。ラストで思わず涙した。そして「いかなる海の洞に」の壮大さはどうだろう。出足はどこにでもある、気まぐれな恋愛譚。それがどんどん様変わりしていき、ラストの荘厳さに息を呑む。
この短編を編んだ伊藤典夫さんの訳者あとがきがほんとうにいい。どんな経緯でロバート・F・ヤングに出会って、それをどんなふうに訳して雑誌に持ち込んだか。目を皿のようにして海外作品を読み、深く作品と関わり、それを日本に紹介していった翻訳家たちの、瑞々しい当時の仕事振りがうかがえる。新装版になっても、 1977年当時のあとがきを収録してくれたハヤカワ文庫に敬意を表したい。新規で追加された久美沙織さんの解説もよかった。あとづけの解説で、読後感が台無しになることがあるけれど、この本はそんなことは全くなかった。最後まで、ヤングの余韻に浸れた。
この短編集「ジョナサンと宇宙クジラ」を電車で読んでるとき、涙が出て困ったことがあった。悲しくて泣くばかりが涙ではない。優しさに触れるときにも、やはり人は涙するんだなぁ。SF初心者の方にも(ってわたしも十分初心者であるけれど)オススメの一冊。